○2度目の大学受験
竜は、2度目の大学受験に臨んだ。
W大学、K大学、R大学、M大学、H大学等の6大学、J大学、N大学等を受験した。
N大学の際には、受験当日、行ってみたら、自分の受験番号が無い!
N大学には、色々なキャンパスがあり、どうやら試験会場を間違えたらしい。
大学の方は、竜を、ある教室に連れていってくれた。
竜のように、試験会場を間違えた連中が他にも数人いた。
生き返った竜は、逆に、落ち着いて、受験することができた。
御蔭様で、合格。
竜は、最終的には、R大学法学部法学科に進学することとした。
ここは、法律と政治、両方学べるところが特徴的だった。
○西所沢のアパート
竜は、住まい探しを始めることにした。
たまたま、同じ予備校生寮からR大学に受かった友達と一緒だ。
R大学に近い池袋の不動産屋を訪ねた。
最初に案内されたのは、池袋駅近くの下宿。
部屋のみの間借りで、トイレは共同、バスは銭湯だ。
部屋は栃木県今市だが、池袋駅にも近いし、面倒くさいので、ここでいっかとも思った。
「どう、すんの?」
不動産屋は言う。
今のような、世界恐慌下で、住宅が余っており、借手優位の時代と違って、当時は、貸し手優位の時代。
今でこそ、敷金・礼金ゼロ、仲介手数料ゼロ、フリーレント等が流行っているが、当時は、敷金2ケ月、礼金2ケ月、仲介手数料1ケ月、前払い家賃1ケ月、合計6ケ月かかった時代だ。
不動産屋も強気だ。
「ここにします。」
竜は言った。
友達は、
「おい。」
「こんなところでいいのか?」
イメージを重視する友達は、言った。
「こんなところじゃ、女も連れ込めないぞ。」
と、言いたげだった。
その後間もなく、不動産屋は、事務所に連絡を取る。
「ごめんな。」
「たった今、先約が入ったんだってさ。」
「あー。」
「そうですか。」
「それでは仕方ないですね。」
竜は、
「こんなところでも、あっという間に決まってしまうんだ。」
とあきれる一方、
「ここにしなくて良かったのかも。」
と、逆に、あきらめがつき、内心、ホッとした。
次の物件は、うって変って、逆パターン。
立地は悪いが、環境、イメージ重視。
場所は、西武池袋線西所沢駅から徒歩5分。
池袋まで、40分。
しかし、物件は、新築のアパート。
1LDKだ。
和室6畳、LDK8畳、バス・トイレ・洗面所付きだ。
2人でも住めるような物件だ。
私は、1階の角部屋、友達は、1階の隣の真ん中の部屋を借りることにした。
2人は、敢えて、別の部屋を借りることにした。
勉強、友達(特に女性?)等、御互いにプライバシーも大切にしたかったのだ。
家賃は、月3万6千円。
当時の下宿の家賃は1万円台が多かったので、倍はしただろうか。
ただ、竜は、司法試験の勉強もしたかったので、環境は重視したのだった。
その後、その友達は、W大学にも合格し、結局、W大学の方に行くことにした。
高田馬場の近所なので、所沢から1本で行けるし、そのまま、その物件で決めることとなった。
そう、所沢は、西武池袋線・新宿線がクロスしているので、結構、便利がいいのだ。
池袋行きと新宿行きが逆方向なのには、最初、戸惑ったが。
竜が大学に入った1978年は、丁度、西武ライオンズができた年。
今と違って、開幕13連敗をし、このまま開幕130連敗をする位の勢いの弱いチームだった。
竜は、いつものように、六法全書片手に、西武球場に野球を見に行ったものだ。
他にも、西武遊園地、ユネスコ村等、自然に恵まれたいい所だった。
大家さんは、丘を下ったところで、「山田うどん」をやっていたおばさん。
いつも、竜は、家賃を持参していた。
大家さんは、いつも、
「御苦労さん」
と言っては、いつもアイスクリームや御菓子をくれた。
御互いにコミュニケーションの一つになっていたのだろう。
○奨学金
竜の家は貧乏だってので、仕送りも充分とは言えなかった。
月7万円だが、家賃だけで、半分以上が消えてしまう。
しかし、竜は、司法試験の勉強もあり、あまり、アルバイトにばかり精を出すわけにもいかなかった。
そこで、竜は、毎日、学生科に顔を出して、奨学金の情報を集めた。
国の日本育英会(特別)、大学・学部、民間企業(守谷商会・伊勢丹)、ありとあらゆるものに応募した。
学生科の先生に、
「俺んちよりいい所に住んでるなー。」
等とも言われたものだ。
「いやー。」
「司法試験の勉強に専念したいので、着るものも着ず、食べるものも食べないででも、いい環境だけは確保したかったんです。」
と言っておいた。
竜は、成績は栃木県今市だが、面接受けは良かったようで、ほとんど合格した。
司法試験、その後の活動の抱負等、明確な目標を持っている方が、好感を抱いて頂けるようであった。
トータルすれば、かかった授業料以上に、貰えた奨学金の方が多かった。
○D銀行各支店のビル清掃
竜は、友達と、アルバイトをすることにした。
D銀行各支店のビルの清掃だ。
土曜日夕方3時過ぎ頃から、D銀行各支店のビルの清掃に行くのだ。
当時は、金融機関は、土曜日勤務だったので、未だ、一部行員も残っていたものだ。
(竜が、金融機関を志望しなかった理由の一つ。)
まづは、椅子を全て、机の上に上げる。
そして、拭き掃除。
これは、拭き掃除機、モップを使い分ける。
竜は、モップ担当。
モップの両面を均等に使い、効果的に清掃をしていく。
最後は、椅子を戻して終わり。
1日4千円を貰えるのだが、早ければ、2時間で終了する。
当時時給平均500円位の頃だから、結構、美味しいアルバイトだった。
あまり格好のいいアルバイトではないが、こういうところに美味しい仕事というのはあるもんだということを、竜は知った。
又、今でこそ、セキュリティは厳しいが、当時は、ほとんどそういった発想そのものもなく、アルバイトでも平気で、銀行内に出入りしていたのだった。
○更新料
2年経過しそうなころのある日、仲介の不動産会社からの手紙。
更新料として、1ケ月分かかるとのこと。
1ケ月分といえば、3万6千円。
大貧民の竜には、大変だ。
そもそも、なんで、1ケ月分もかかるのか解せない。
竜は、六法全書を調べましたが、根拠がはっきりしない。
次に、判例を調べた。
やはり、根拠に乏しいようで、各地の習慣程度のもののようだ。
仮に、払わなくても、信義誠実違反には該当せず、入居者は、借家法で保護されており、追い出されることもないことも確認した。
借家法では、大家は、自分が住むところが他に無い等、正当な理由がある場合に限り、6ケ月以上前の告知により、賃貸借契約を解除できるに過ぎない、つまり、ほとんどの場合、賃貸借契約解除はできないのだ。
竜は、大家さんの所へ、相談に行った。
お金がない事象も含めて、又、通常の解釈も含めて。
大家さんの方も、特に深い大意があるわけではなく、仲介の不動産会社に任せているようだった。
不動産会社の方さえ問題なければ、大家さんの方は、特にこだわっていないようだった。
そこで、仲介の不動産会社に相談。
又又、お金がない事象も含めて、又、通常の解釈も含めて。
不動産会社の方も、竜の話を了解してくれた。
但し、不動産会社の手数料として、5千円だけは、支払って欲しい由。
竜は、了解した。
竜は、自らの身の回りの話について、自ら、法的な問題につき、自分で調べた始まりだった。
やはり、自分なりに、調べることの大切さを知った竜だった。
○家庭教師
竜は、友達の親戚の中学生の家庭教師を引き受けることになった。
英語と数学。
英語は優しかったが、数学は、結構難しい。
高校数学のやり方で解くと、
「先生、その方法、習っていません。」
等と、よくなった。
その場合、高校で習う公式は使えず、公式そのものをも説明したり、別の、原始的な解法を使わざるを得ない。
その場合、問題を持ち帰ることもあった。
毎週1回2時間位かけて、実施。
同じ沿線の最寄り駅からバスで、自宅へ向かった。
月1万円と、気持だけ頂ければ充分だったのだが、毎回、行くと、御茶・ケーキを出して下さり、終わったら、一緒に、夕食を出して下さった。
そして、御主人が早めに帰宅して下さり、竜のアパートまで、車で送って下さった。
夏休み等では、姉妹2人で、竜のアパートにまで、勉強に来ることもあった。
教えるということは、教える側にとっても、自分の整理にもなるし、勉強になるということを知った竜であった。
その後、竜は、社会人になった後、リスクマネジメント、ITシステム監査・情報セキュリティ・個人情報保護等、そして、プライベートでも、不動産経営等に関して、説明会を実施するようになるが、思えば、これが、教育・啓蒙の走りであった。



